クライム

『ボーダーライン』メキシコ麻薬戦争。その善悪に境界はあるのか?(ネタバレ感想)

アメリカとメキシコ国境付近を舞台とした麻薬カルテルとその殲滅を目的とする特別捜査官の闘いを描く映画「ボーダーライン」。原題のSicarioは「殺し屋」の意味のスペイン語。両タイトルの意味から、結末・ラストのオチまで感想を交えて解説します。

(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ボーダーライン

原題:Sicario / 上映時間:121分 2015年(アメリカ)R15+ 配給:KADOKAWA

作品情報

「プリズナーズ」「灼熱の魂」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、「イントゥ・ザ・ウッズ」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のエミリー・ブラントを主演に迎え、アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争の現実を、リアルに描いたクライムアクション。共演にベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン。(引用:映画.comより)

監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
製作 ベイジル・イバニク、エドワード・L・マクドネル、モリー・スミス、サッド・ラッキンビル、トレント・ラッキンビル
製作総指揮 ジョン・H・スターク、エリカ・リー、エレン・H・シュワルツ
脚本 テイラー・シェリダン
撮影 ロジャー・ディーキンス
美術 パトリス・バーメット
衣装 レネー・エイプリル
編集 ジョー・ウォーカー
音楽 ヨハン・ヨハンソン
音楽監修 ジョナサン・ワトキンス
キャスト エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、ビクター・ガーバー、ジョン・バーンサル、ダニエル・カルーヤ、ジェフリー・ドノバン
公式HP https://border-line.jp/1/

あらすじ(ストーリー)

巨悪化するメキシコ麻薬カルテルを殲滅すべく、特別部隊にリクルートされたエリートFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)。特別捜査官(ジョシュ・ブローリン)に召集され、謎のコロンビア人(ベニチオ・デル・トロ)と共に国境付近を拠点とする麻薬組織・ソノラカルテルを撲滅させる極秘任務に就く。仲間の動きさえも把握できない常軌を逸した極秘任務、人が簡単に命を落とす現場に直面したケイトは、善悪の境界が分からなくなってゆく。麻薬カルテルを捕えるためにどこまで踏み込めばいいのか?法無き世界で悪を征する合法的な手段はあるのだろうか?得体の知れない悪を前に、知れば知るほど深くなる闇の行く末とは―。(引用:Filmarksより)

満足度 (4.5)

本当の主人公は誰?…めちゃくちゃよかったです。

現在「ボーダーライン:ソルジャーズデイ」が公開中で、すでにそちらは鑑賞済みなんですが、やはり1作目を先に軽くレビューしておこうということで。メキシコ麻薬戦争、これがリアルにある世界だと思うとね…。ではさっそくいってみよう!

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』メキシコ麻薬戦争第2章。国境で決死のサバイバル (ネタバレ感想)アメリカとメキシコ国境付近を舞台とした麻薬戦争の現実と、捜査官の戦いを描きアカデミー賞3部門にノミネートされた前作「ボーダーライン」待望...

登場人物:主人公はいったい誰?(ネタバレなし)

さて、まずは冒頭でも書いたように、原題は「Sicario」意味はスペイン語で「殺し屋」。日本では「ボーダーライン」というタイトルなんですが、このタイトル非常にいいですね!何重にも意味をなせるこのタイトル。一体何のボーダーラインなのか?国境線という意味はもちろん、善と悪、何が正義で何が悪なのか。またそれを踏み越えた人間とそうでない人間のいるべき場所はどこなのか?そしてこれです、

一体誰が「殺し屋」なのか?

この映画のすごいところは、この我々が生きている世界で現実に起こっている(であろう)ことをリアルに描写しつつ、最後の最後にエンターテイメント映画として、観客はある種のカタルシスを与えられることになる。そしてそれが主人公同様に、「自分のボーダーラインはどこにあるのか?」と、いろいろと考えさせられてしまう仕組みになっているところでしょうか。う~ん、難しいなネタバレ無しに表現するのが。またあとでネタバレとともに考えましょうかね。

麻薬カルテルものとしてはリドリー・スコット監督の傑作「悪の法則」がありますね。そちらもめちゃくちゃ名作。またいずれレビューしようと思います。

それでは今回はまず登場人物の紹介から行きましょう。

  • ケイト・メイサー(エミリー・ブラント)
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国境付近での誘拐犯罪を担当していたが、根本からの解決を目指し麻薬カルテル殲滅のための作戦に志願したFBI捜査官。※「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「ガール・オン・ザ・トレイン」「クワイエット・プレイス」(感想はこちら)は必見だよ!

  • アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)
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マットのパートナーで捜査チームに参加する正体不明のコロンビア人。チェ・ゲバラでコレクターな人。

  • マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)
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自称、国防総省の顧問。実はCIA工作員。特別捜査チームのリーダー。※ケーブルでサノスな人。

とにかくこの3人の演技が凄い。

とりあえずこの3人だけ覚えておきましょう。法にのっとって捜査したいケイトと、手段を選ばないマットとアレハンドロ。いったい何が正義なのだろうか。そしてこの「映画」ではなく「物語」の主人公は誰なんだろうか?

序盤の見どころ(ネタバレ解説+感想)

冒頭、ケイトをリーダーとした誘拐即応チームが犯人の隠れ家を急襲。殲滅するも、家屋の壁中、床下などから多数の遺体を発見。さらに捜索中に犯人の仕掛けられていた爆弾が爆発し、捜査チームに犠牲がでる。

ケイトは上司から推薦されて国防総省のマット(ジョシュ・ブローリン)率いる特別捜査チームに加わり、誘拐の元締め麻薬カルテルのボス、マニュエル・ディアスを追うため、元検察官だという謎の人物アレハンドロ(ベネチオ・デル・トロ)と合流し、アメリカ側の国境エル・パソに向かう。

「メキシコの警察は買収されているから信用するなよ」と言われつつ、対岸メキシコの街フアレスに入り、ディアスの弟をメキシコ警察から引き取る。エル・パソへ戻るため国境を超える際、渋滞で止まった高速道路上で奪還しようとするカルテル組織に気づいた捜査チームは相手の車を包囲するが、抵抗しようとしたため銃撃、全員を射殺する。その際、車で待機していたケイトはサイドミラーに写ったメキシコの警察官に銃で狙われていることに気づき、間一髪で相手を射殺。

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民間人だらけの場所で違法に銃撃を行ったことに納得がいかないケイトは「私は兵士じゃない」とマットに訴えるが「早く慣れろ」と諭される。

拷問によりディアスの居場所を聞き出したマットらに、作戦の全貌を知らせないと操作から抜けると抗議するケイト。マットとアレハンドロは、真の目的はディアスの上のボス、ファウスト・アラルコンだと告げる。

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いきなり容赦ない描写、発見された遺体はビニールにくるまれているけど顔の形がうっすらわかる、しかもカメラがその顔に寄ってアップになるんですが、まるで動き出しそうな…とっても不穏な空気の直後、爆弾が爆発。その後、手首が落ちている描写。容赦ないね、しかもここまでまだたったの5分程度。

また、フアレスの街では見せしめのため首を切り落とされた死体が何体もぶらさげられている光景を見て我々もケイトもドン引きです。

いや、フアレスという街の危険な空気感、恐ろしいところだということがひしひしと伝わってくる感じ。また亡くなってしまったヨハン・ヨハンソンの音楽が、不穏さ・不気味さを見事に演出。ホントに怖いとしか言いようがない…これが現実に起こっていることなのかと思うと。

中盤~終盤(ネタバレ解説+感想)

カルテルの資金洗浄摘発作戦

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チームはカルテルの資金洗浄を摘発、ケイトは1700万ドルを押収し法に従って逮捕できると訴えるが、マットは「起訴はできない、いずれ弁護士が取り返す」と言う。憂さ晴らし?に相棒と飲みに行ったケイトは、意気投合した相棒の友人の警察官テッド(ジョン・バーンサル)といい仲になりかける。ところがテッドは汚職警官だと気づいたので、もみ合いになって殺されかけた時、アレハンドロが助けに。

  • CIA(マット)の目的1 ーケイトをおとりにするー

資金洗浄捜査で銀行の監視カメラに映ったケイトに接触してきた汚職警官テッド。これはカルテルがテッドに捜査の進捗を探らせるためだったが、逆にCIAはそこを拘束してカルテル側の汚職警官のリストを吐かせようという作戦だった。もちろんケイトには事前に知らされてはいない。

国境の麻薬密輸トンネル殲滅作戦

テッドを拷問してカルテル側の汚職警官をすべて聞き出したマットとアレハンドロ。捜査チームは、不法入国者から得た情報をもとに国境の密輸トンネルを特定し、取引のある日にこれを急襲、敵を殲滅させて行く。

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アレハンドロはチームから一人離れ、メキシコ側の出口で麻薬の受け渡しをしていた汚職警官シルヴィオを拘束しようとしていたところ、それを追ってきたケイトに止められるが、アレハンドロは即座に防弾ベストに銃撃、「二度と俺に銃を向けるな」と言い放ちシルヴィオを連れ離脱する。

違法にメキシコ側にアレハンドロを送り込むための作戦だったと知ったケイトは、チームに合流したときマットに殴り掛かるが、取り押さえられアレハンドロの正体を聞く。アレハンドロは「妻の首を落とされ、娘を酸に投げ込まれ殺害された」元検察官で、今は妻子を殺した(殺すよう命じた)男への復讐を果たすため、敵対するコロンビア・カルテルとCIAに雇われている「殺し屋(Sicario)」となっていた。

  • CIA(マット)の目的2 ーアレハンドロにボスを暗殺させるー

CIAの目的はアレハンドロにメキシコ麻薬カルテルの大ボス、ファウスト・アラルコンを殺させ、コントロールの利かないメキシコ麻薬カルテルから、コントロールできるコロンビア・カルテルの支配を復活させることだった。

アレハンドロの復讐劇

さて、ここからこの映画はこれまでの作戦ではすべてを知らされず蚊帳の外だった「映画の主人公」ケイトの視点から、「物語の主人公」アレハンドロの復讐劇へと大きく舵を切ります。ここからは完全にアレハンドロ視点。いままでもなんとなく別世界に生きてる風だったこの二人ですが、いよいよケイトが全く関われないアレハンドロの世界へ進んで行きます。

シルヴィオにパトカーを運転させたアレハンドロはディアス(中ボス)を捕らえ、汚職警官のシルヴィオを射殺。今度はディアスに車を運転させ、アラルコン(大ボス)の邸宅へ。ディアスと門番の手下たちを射殺したのち豪華な食卓を囲むアラルコンとその家族のテーブルに着く。アラルコンと会話しながら、怯える男の子2人と妻を容赦なく射殺。驚くアラルコンを射殺し復讐を遂げる。

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ケイトのもとに現れたアレハンドロは、違法行為はなかったという報告書にサインをしろと言うが、「できない」と言ったケイトの顎に銃を突きつけ、死ぬかサインするか選べと脅し、サインさせる。小さい町へ引っ越してすべて忘れろ、と言い残し立ち去るアレハンドロにケイトは銃を向けるが、撃つことができなかった。

このくだり、まだ子供の兄弟を容赦なく射殺したのには驚いたし、それを見せられた直後のため、終始蚊帳の外ではあったものの自分なりの(正義)を貫こうとしていたケイトに、アレハンドロが銃を突きつけた時、まさかこれは…本当に撃ってしまうのでは?と心底「やめて~」と思って見てました。それと確かにあの子らは大人になればカルテルの幹部になるんだろうし、助けた場合でも親を目の前で殺されることになるし…。残酷な方法で妻子を殺されているこの男の復讐に、カタルシスを感じてしまう自分もいたりして、自分のボーダーはなんだろうか?なんて考えさせられました。

ラストはちょいちょい出てきていたシルヴィオの子供がサッカーの試合でプレー中、どこからか銃声が聞こえてきて、みないったんそっちを見るがそのまま試合に戻る中、タイトルの「Sicario(殺し屋)」が重なって終了してました。

サッカーをする子供たちに、銃声と殺し屋の文字を重ねて終わるという…不穏にもほどがあるすばらしいエンディング。これが彼らの日常。彼らの未来を思うとね、胸が苦しくなりますね。

まとめ:犯罪映画と見せかけて、実は一人の男の復讐譚

終盤まで謎だったアレハンドロの経歴。おそらく検察官の仕事でカルテルに目をつけれて妻子を殺され、その後検察官をやめ、軍隊の技術を身に付け、静かに静かに獲物を捕らえようとしてきた。それがわかってから今までのアレハンドロの表情、深い闇を抱えた眼差しなどを思い起こすとちょっとブルっと震えが来ました。それくらい渋いです、闇が深いです、最高です、ベニチオ・デル・トロ※ちなみに映画秘宝のインタビューによると世界のミフネこと三船敏郎のイメージで演じていたそうです。

この作品は、主人公の女性捜査官が奮闘する犯罪映画と見せかけて、

実は一人の男の復讐物語

これをケイトの視点で見ていたわけですね、我々は。この視点の切り替えが見事な映画でした。

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続編の「ボーダーライン:ソルジャーズデイ」もとてもよかったです。レビューはこちら。

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ではまた。

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